A型肝炎の説明
概念
A型肝炎ウイルス(hepatitis A Virus:HAV)によって引き起こされる主に肝臓を侵す全身性感染症である。
HAVはエンベロープを持たない直径27nmの熱、酸、エーテルに抵抗性のないプラス鎖、1本鎖RNAウイルスである。
糞便中に排泄されたHAVに汚染された生牡蠣などの魚介類の食事(国内)や生水、非加熱の食材(主に海外旅行の際)による経口感染により発症する。潜伏期は約4週間である。ALT上昇、黄疸発現の直前に糞便中にHAVが排泄される。この時期には肝臓、胆汁、便および血液中にHAVがみとめられる。本邦では冬から春にかけて多発する季節性を有する。この急性肝炎は戦後生まれた免疫力のない50歳台以下、20歳以上の若年層に多くみられる。10歳以下の幼児は不顕性感染がほとんどで、黄疸などの自覚症状はみられない。
症状
A~E型肝炎で最も症状が重く、8割の患者で黄疸がみられる。他の症状は、発熱や感冒様症状、消化器症状などで50~70%の患者にみとめられる一般検査では、白血球減少、相対的リンパ球増加、異型リンパ球(virocyte)のみられることがある。ビリルビンの上昇、IgMの上昇を反映するTTT, IgMが高値を示す。
診断
A型肝炎多発地域への海外旅行、生の貝の摂食などの病歴の詳細な現病歴の聴取が重要である。確定診断は急性期に血清学的にIgM-HA抗体を証明する。感染の既往を示すIgG-HAV抗体は終生検出され、この中和抗体を有するうちは感染は防御される。
画像検査
超音波検査で発黄例では、胆嚢が萎縮し、さまざまな程度の脾腫がみとめられる。劇症化すれば肝の萎縮、腹水の貯留がみとめられる。
病理
すべての型のウイルス肝炎の組織像に特異的な所見はない。小葉全体の円形細胞浸潤、肝細胞壊死、Kupffer 細胞増生セロイド色素や胆汁色素の沈着などである。再生像も同時にみとめられる。すなわち、細胞の有糸分裂像、多核細胞、腺管形成などが観察される。
治療
対症療法が主な治療法である。総ビリルビン4以上の黄疸のある自覚症状の強い症例は原則入院させる。食欲不振や悪心,嘔吐で脱水、栄養不良に陥る例では、経静脈的に水分、栄養分、ミネラル、ビタミンを補給し合併症の発症を阻止なければならない。
A型肝炎は多彩な肝外病変
が合併することがあり、速やかに専門医と連携して治療にあたるべきである。高齢者では黄疸や肝不全が遷延化することがあり、注意を要する。
劇症肝炎も0.1%と稀に発症することがあり、念頭に置き経過観察し、肝萎縮、脳症、プロトロンビン時間の40%以下の低下を認めたら、血漿交換や肝移植可能な専門施設への緊急搬送する。
食事は食欲をそそる患者の好むものを与える。ただ、急性期は0.8~1g/kg程度の低蛋白、低脂肪食が消化器症状の改善を早める。
- 処方例)
- 食事が不可能な場合:ソリタT3Gあるいはフィジオゾール3号500ml+ビタノイリンあるいはビタメジン1V。
- 悪心、嘔吐の症状が強い場合:プリンペラン1A点滴に昆注。あるいはナウゼリン座薬(60mg)1日2回投与。
肝外病変
急性腎不全:約2%に合併する重篤な疾患である。死亡原因になることがあり、肝機能のみならず、腎機能低下にも注意し専門医と連携し治療にあたる。
予後
原則100%慢性化することなく治癒する。キャリア化することはない。肝硬変や肝癌への進展はない。中和抗体であるHA抗体を獲得するので原則的に再感染しない。
稀に重症化して、黄疸の遷延化や劇症肝炎化がみられる。患者が高齢になるほど重症化しやすく、小児では発黄せず無症状の経過をとることが多い。
予防
能動免疫(ワクチン)と受動免疫(免疫グロブリン)がある。状況に応じて使い分ける。
- A型肝炎ワクチン:適応は50歳以下のHA抗体保有しない層が主な対象である。以下の薬物投与は原則HA抗体を測定して陰性であることを確認してから行う。(HA抗体測定は保険適応外で1回1,500~3,000円の自己負担)
- 処方例)
- エイムゲン1V(0.65μg)0.5mlを皮下注する。初回接種後2~4週目に2回目、24週後に3回目の接種を行う。(保険適応外で1回7,000~11,000円の自己負担)
- 免疫グロブリン:A型肝炎の集団発生や家族内発生時、未発症の潜伏期に投与し発症予防や顕性感染を阻止ことを目的とする場合、急な海外出張などでHA抗体獲得を急ぐ場合:ヒト免疫グロブリン製剤を投与する。約3ヶ月間、有効である。
- 処方例)
- グロブリン-Wf(15%)10ml 筋注(保険適応外で1回7,000~11,000円の自己負担)

